作品という立体

上演作品は、多面体である。
一本の作品を仕上げることで、いろんなものがみえてくる。常々、書いている

が、演出作業の一端は、作品の外観を構成する出演者を見守り、最後まで見届

けることにある。今作のダンサー陣は、当初人選で苦労したものの結果的には、

ベストメンバーだったとおもう。


サイレンスダンス初登板の私役=野老真吾くんは、じつは作曲家。日常を36

時間サイクルで暮らしていて、36時間に一回の就寝時間を設定しているフシ

ギな青年である。一度に4曲のCDを聴きながら音楽の特質を掴もうとするよ

うな試行性に富んだことをあたりまえのように生活に取り入れている。個性的

な生活の反面、集団のなかでは、細やかな気配りができてとても重宝する。彼

の存在は、作品を取り巻く空気を清浄化してくれる役割を果たしてくれた。サ

イレンスダンス二作目の静役=すうさんは、日頃使っていない振付、ムーヴメ

ントをひきだしてもらうよう課題をださせていただいた。真面目でひたむきな

ひとなので、ひそかに特訓している様が窺われた。案の定、当日の舞台では、

観客へ正対する彼女の眼差しは、透徹したうつくしさをはらんでいた。やはり、

二作目参加、先生役=河合 悠さんは、言語で伝えきれない想いを受けとめる

感受性に富んでいる。多忙な仕事の合間を縫って参加いただいたが、佇まい力

が日増しによくなっていくことに感心した。《おどるゴッホ》から三年余、月

日以上に貫禄がついた様子は、今作の先生役に適任であったろうとおもう。さ

てもうひとり、途中登板になったK役=吉村公祐くんは、B級遊撃隊からの客

演。絶妙な発声の間合い、どんな役をやらせてもフカシギな存在感が漂う。

「死者の役が多いんです」とご本人も云われるように、今作でも彼岸に片足踏

み入れているような半分死んでいるようなK役である。結果的に、稽古には5

回の参加だったが、初回から振付ノーミスの身体適応力をみせてくれた。将来

は、主役で参加いただきたい人材である。さらに弁士役の古池鱗林さんは、場

数を踏んだプロの仕事で、中学生たちを笑いの渦に巻き込んでくれた。要所に

散りばめた下ネタも絶好調!サイレンスダンスの導入と作中飛び入り特別出演。

そして後半のボディワーク・オンステージの進行を巧みな話術で助けていただ

いた。

 

やはり出演していないと、出演者の身体情報がより観察できてありがたい。観

客の矢面に立つ出演者たちへの采配と統合により作品は成立つことを再確認し

た次第である・・。